夏の風物詩と言えば、スイカ、風鈴、かき氷、ラジオ体操、G1CLIMAXなど多様にありますが、智辯学園和歌山高校が奏でる『ジョックロック』もそのひとつです。

 

高校野球ファンにはお馴染みの応援曲『ジョックロック』は智弁和歌山高校がチャンステーマとして使用する高校野球界では最も有名な楽曲です。この曲が演奏されると大量得点に繋がることが多いため『魔曲』の異名で知られています。そしてこの魔曲を効果的に使いこなし球場の空気を自在に変えてしまう智弁和歌山高校の重厚で統率のとれた応援もまた圧巻。それは応援している人を応援したくなるほどの魅力なのです。

 

縁もゆかりもない智弁和歌山高校になぜか親近感を覚えてしまう、誰しもそんな経験がおありのことと思います。智弁和歌山には人を惹きつけてやまない魔力があります。「智弁和歌山」はついつい口に出したくなる語感のいいワードです。この国に生まれて“智弁和歌山”と発したことがない方は恐らくいません。それはまさに“墾田永年私財法”のそれと全く同じ、よくわからないけどよく知っている現象です。千鳥の『旅館』やサンドウィッチマンの『結婚相談所』と言った野球と関係ない漫才やコントのネタの中にも“智弁和歌山”が登場していることからもそれは明白です。さらに!こちらも誰もが一度は目にしたことがある白地に「智辯」と刺繍された鮮烈な“智辯レッド”はトラウマレベルのインパクト、黒と白がベースの高校野球の中では非常に目立ちます。智弁和歌山高校にはクセになる魅力が予め備わっているのです。兄弟校である奈良の智弁学園と比べてみてください、結果は明らかです。

 

応援団は赤地に白い智辯バージョン(引用:NHK

 

その上、ジョックロックに代表されるように応援スタイルも魅力的、応援だけで金がとれると言う人も現れるほどの人気ぶりです。特筆すべき点は多々あります、それは吹奏楽部の上手さであり、鍛え抜かれた応援団が繰り出すキレ味鋭い振り付けのユニークさであり、チアリーダーが見せる底なしの笑顔と声量の半端なさ。そしてこの三者それぞれのパフォーマンスが息を合わせてひとつの応援に昇華させている姿こそが最大の見どころ、それは時間を忘れて見入ってしまうほど完成度の高い作品と言えます。

 

そんな智弁和歌山高校の応援には他校とは異なる独自のルールが存在し、それが伝統的に受け継がれています。例えば、1選手1応援曲が一般的な応援スタイルに対して、智弁和歌山は1回につき1応援曲システム、打者が交代しようがタイムがかかろうが3アウトになるまで絶え間なく演奏が続き、応援団もチアリーダーも激しい振り付けをアグレッシブに舞い続けます。そんな無尽蔵な情熱も心を奪われる理由のひとつ、元吹奏楽部としてあの同じ曲を延々と演奏する姿は感動的ですらあります。

 

そしてその1回1曲システムは、いつどのタイミングで何を演奏するのかもきちんと決められています。智弁和歌山高校のレパートリーの中からジョックロックと並んで人気の高い『アフリカンシンフォニー』は1回と7回に演奏されるのが掟。プレイボールのサイレン後に鳴らされる重厚で威圧感満載のアフリカンシンフォニーは戦いの始まりを告げるに相応しい楽曲です。そして試合終盤の大事な局面と見るや満を持して登場するのがチャンステーマの『ジョックロック』。ただ得点が欲しいからと言って安売りしないところがジョックロックが魔曲と呼ばれる所以です。

 

今年の春の選抜大会で好勝負を演じた対東海大相模戦で智弁和歌山高校が演奏した楽曲を振り返ってみます。

┃第90回選抜高校野球大会 2018年4月3日 智弁和歌山×東海大相模

1回 アフリカンシンフォニー(0点)

2回 コパカバーナ(0点)

3回 シロクマ(2点)

4回 エル・クンバンチェロ〜ジョックロック(3点)

5回 ミラクルショット(0点)

6回 サンバ・デ・ジャネイロ(0点)

7回 アフリカンシンフォニー(1点)

8回 シロクマ〜ジョックロック(4点)

9回 ミラクルショット(0点)

10回 ミラクルショット〜ジョックロック(2点)

智弁和歌山12-東海大相模10(延長10回)

 

一時は最大5点差をつけられた智弁和歌山が8回で追いつき延長の末に勝利したこの試合、智弁和歌山高校の12点中9点がジョックロックが流れる中での得点でした。ジョックロックは勝負どころの8回以降、得点圏にランナーが進んだ場合のみ使用することが決められていますが、この日は4回から登場するサプライズ采配。この奇策がズバリ的中し序盤で一旦逆転に成功しました。試合展開を読む力も智弁和歌山高校ならでは、ベンチの外から野球部を支える強力な援軍です。

 

そんな恐るべきジョックロック、生みの親は智弁和歌山高校の吹奏楽部の顧問だった吉本英治先生(現教頭)。作曲ソフトのデモテープに入っていたジョックロックを応援曲用に歯切れ良くアップテンポにアレンジして平成12年夏の甲子園で使用したのが始まりです。

 

智弁和歌山の他にもジョックロックを使用する高校はございますが、やはり元祖ジョックロックはキレ、音量ともにひと味もふた味も違います、そして当然ながら他校のジョックロックには魔力がありません。その理由を吉本さんは不協和音にあるとインタビューで仰っています。

 

「不安な気持ちにさせるというのはあるでしょう。短いフレーズを繰り返し繰り返し奏でることで感覚がまひしてくるのかも」

 

「ジョックロックの楽譜は市販されてませんから。あれを耳コピで譜面に起こすのは相当難しい。ネットに上がってるのを聞いても、だいたいは少しずれています」(引用:東スポ

 

ジョックロックは誰でも演奏できますが、智弁和歌山のジョックロックを再現することは不可能のようです。球場の空気を一変させる魔曲ジョックロックは、やはり智弁和歌山高校だけのもの…、

 

「ジョックロックがかかるとビッグイニングになるのではなく、ビッグイニングになりそうだからジョックロックをかける。もともと魔曲だったのではなく、徐々に魔曲に育てていったんですよ」(引用:東スポ

 

ここぞという場面で使用し、ことごとく逆転劇を演出してきたジョックロックが今年の夏も甲子園に鳴り響くのか、智弁和歌山高校の夏の初陣、和歌山大会初戦は明日7月14日です。

 

お時間のある方は是非こちらをご覧ください。

【ジョックロック】

甲子園ではなくて地方大会バージョンなので迫力は半減していますが、高速ジョックロックは智弁和歌山らしい魔力が備わっています。

 

【かっこいい応援団】

アフリカンシンフォニー→エル・クンバンチェロ→ジョックロック→シロクマ→サンバ・デ・ジャネイロ

緩急織り交ぜたクセになる振り付けです。応援席の模様をライブ中継する応援専門チャンネルをAbemaTVあたりで実現して欲しいと思うこの頃です。

 

 


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です