2017年6月30日(金)
道を尋ねられるのはいいです。いい人ポイントをゲットできる絶好の機会です。
長野から東京へ向かう新幹線で隣り合った人に、これから行く目的地について尋ねられたことがあります。見せてもらったコピー用紙に地図はなく会場の住所だけが書かれていました。
就職活動で着るようなおとなしいスーツ姿の若い女性だったので、企業の合同説明会の会場だと察しなんとか伝わるよう丁寧に説明しました。けど、伝わっていないことは表情を見れば明らかでしたので、東京駅から会場まで案内することになりました。
道案内をする側とされる側の二人とは思えないほど他人行儀な会話すらなく、その人はとても無口でした。きっと初めての東京、そして就職説明会、さらに横には知らない男。無口にもなります。
会場は御茶ノ水駅にありました。駅から会場までの道のりも当然わからないので、住所を頼りに歩いて案内することに。しばらくして見えてきた会場はとても巨大で、入り口には遠目にもハッキリわかる大きな看板が掲げられていて、そこには就職説明会の名前も、企業の名前もなく、とある有名な宗教名が書かれていたのです。
無口だった本当の理由がようやくわかりました。こんな若い人を右も左もわからない東京に呼び寄せるだけの力が宗教にはあるのですね。新幹線で隣り合ってからおよそ二時間、ふたりの東京物語は素っ気なく終わりを告げました。いい人ポイントが少し貯まりました。
ある平日、新橋から渋谷行きの都バスに乗っている時に、これから向かう研修先についての行き方を尋ねられました。愛知から来たというその人はコスメの会社に就職したばかりで研修のために東京に送り込まれたらしい。いかにもコスメ業界な黒くてピッチリとしたパンツスーツに小ぶりなキャリーバッグを抱えています。
見せてもらった紙によると研修先は青山。このバスでは少し遠くなる旨を告げると、研修先に行く前に西麻布にある会社の寮に寄ってキャリーバッグを置いて行きたいとのことでした。
この人は道がわからないと言うよりも、一人だと不安だし何かと面倒だから付き合ってよ、みたいな感覚の人でした。だから悲壮感もなく良く喋られました。入社したばかりの会社の愚痴を話したり、将来はネイルサロンをしたいなんてことも。意気投合したわけでもないのに一緒に寮を目指すことになりました。
寮は西麻布の交差点からしばらく歩いた急な坂道を登った先にありました。中学生の修学旅行に使われそうな古い旅館みたいな佇まい。玄関の両開きの引き戸は開けっ放しにされていて、誰の挨拶も無しに上がり込んだ二人は、六畳ほどの広さの和室にキャリーバッグを置きました。恐ろしいほど静まり返った夕方のことです。
身軽になった彼女が突然、研修先には一人で行けると言い出したので最寄り駅まで送ることに。携帯のメールアドレスが書かれた名刺とポケットから飴を出して「お礼」といって風のように消えてしまいます。その後のメールによると研修先には無事に着いたらしく。さらにその後のことは知りません。いい人ポイントが少し貯まりました。
別の平日、乗り換えの為に地下鉄有楽町駅の構内を歩いていると外国人に福岡までの行き方を尋ねられました。とても困っている様子で、その芝居じみた片言の日本語を要約すると「金を貸してくれ」と言うものでした。
東京に来て驚いたことの一つに、ダイレクトに金をせびられる機会がまあまああることが挙げられます。田舎にはない体験でした。ほとんどは路上生活者でしたが、この日は外国人でした。「ポリス!ポリス!」駅に貼られている地図を指差しながら交番の場所を教えて逃げるように逃げました。いい人ポイントは貯まらず。
最近は道を尋ねられる機会が減りました。スマホはたくさんの人の仕事を奪いましたが道案内もその一つです。おかげでいい人ポイントも貯まらない。いい人ポイントは何に還元できるのか教えて欲しい。