ここ最近、テレビ発ネットで話題となったパワーフレーズを使用した元ネタ広告が立て続けにXに投稿されていましたが、この流れはもうトレンドを越えた広告手法のひとつなのかもしれません。
元ネタとなったフレーズはこの3つ。どれも新語・流行語大賞にはノミネートすらされないながらもネットを中心に擦り擦られネタとして磨き上げられたパワーフレーズばかりです。

弟子やったらパンパンやなお前
言わずとしれたオール巨人さんがTBSのテレビ番組『ガチンコ!』(1999~2003年)内の企画<漫才道>で態度の悪態をつく生徒に放ったひと言。その鬼気迫る表情から繰り出されたパンパンの響きが恐怖の二文字では片付けられない異形の感情を生み出す。想像力を掻き立てる奥深いフレーズは令和の今でも芸人さんがネタにしているほどの息の長さ。それもこれも第一線で活躍し続けるオール巨人さんの存在感の大きさがあってこそです。

豊島? 強いよね。序盤、中盤、終盤、隙がないと思うよ。だけど……俺負けないよ。え〜、こまだっ、駒たちが躍動する俺の将棋を、皆さんに見せたいね。
プロ棋士佐藤紳哉七段(当時六段)が『NHK杯テレビ将棋トーナメント』(2012年)対局前のインタビューで対戦相手の豊島将之九段(当時六段)に放ったひと言。日曜朝のNHK将棋番組といえば「いい将棋を指せるよう一生懸命頑張ります」が常套句なところ、橋本八段とともにその定石を壊した立役者の一人。小刻みに身体を揺らし噛みながらプロレスラーさながらのキャラに入ったインタビューは同業者からもネタにされる。強さだけではない将棋の魅力を世間に知らしめた貢献は大きい。

こちらは令和の最新作とも言えるパワーフレーズ。ダイアン津田さんが『水曜日のダウンタウン』(2024年)内の企画<名探偵津田>で真冬に急遽、新潟県妙高行きが決まった半袖姿の津田さんが放ったひと言。どちらかというと『長袖ください』の方がメジャーだが、家に帰る時間がないならユニクロに寄って長袖買っていかせてくれという津田さんの叫びは、どこにでもあって手頃に良質な服が購入できるユニクロの訴求ポイントど真ん中。
そしてこれらのフレーズが実際に使用された広告がこちら。
マクドナルド |
「Lやったら 腹パンパンやな」
─── オール巨人 pic.twitter.com/mfq5KC6lpd— マクドナルド (@McDonaldsJapan) May 13, 2025
どん兵衛 |
「一軍どん兵衛?ウマいよね。
きつねうどん、天ぷらそば、隙がないと思うよ。」売り上げ二軍 おいしさ一軍 二軍どん兵衛#二軍どん兵衛#佐藤紳哉 #豊島将之 pic.twitter.com/7qvB4Wqnht
— どん兵衛 公式 (@donbei_jp) May 9, 2025
ユニクロ |
津田、母の日に服を贈る。
フルバージョンはこちらhttps://t.co/wgT4RaEvoL https://t.co/Ud3mJjh965 pic.twitter.com/0uVYOCOsI3
— ユニクロ (@UNIQLO_JP) May 8, 2025
元ネタが既にインフォマーシャル的側面を帯びていたユニクロは広告になるのは自然な流れだが、<名探偵津田>に出演した津田さんのお母様も起用し、母の日広告にしたことが絶妙すぎ。2月オンエアで5月には広告展開しているスピード感も普通じゃない。
将棋との接点皆無のどん兵衛には面白いことを真面目に取り組む心意気しか感じない。佐藤七段だけではなく、豊島九段まで起用する再現度へのこだわりは、元ネタを疎かにしてはならない元ネタ広告のお手本のような作り込み。聞き手の矢内女流も本人かと思いました。
そして、マクドナルドに至ってはそのフレーズもキャラクターも客層と真逆、そのツッコミ待ちの姿勢が面白い。最近のマクドナルドのWEBまわりは楽しい広告が多い。子どもや学生だけでなく、おじさんのハートも掴みにかかるマクドナルド恐るべしです。
マスは大衆で、ネットは閉鎖的な世界に分類されていたのも今は昔、情報量で言えば圧倒的にマス<ネットなわけで、ねじれ現象が加速中。メジャーとされるものを誰も知らず、ニッチだと思うものが話題になる。その”誰もが知るニッチなフレーズ”を再利用する元ネタ広告は今後もしばらく続きそう。受け手の下地がある分、伝えやすくもありますが、元ネタの世界観や歴史を壊してしまうと即炎上の可能性もはらむ。それは原作アニメの実写映画化にも似ていて、ヒットを狙って安易に飛びついたら痛い目にあうこと必至です。
その点ここでご紹介した3本は、元ネタを壊すことなく上手にパロディに仕上げつつきちんと広告として機能させているスグレモノ。25年前に口にした「パンパン」が四半世紀を独り歩きしてマクドナルドの広告として本人に帰還するというストーリーは大河ドラマのような壮大さを感じさせてくれます。口は災の元ばかりを肝に銘じる昨今ですが、「言い勝ち功名」を感じさせてくれる三本の広告でした。