SNSを開けば大なり小なりたくさんの名言を目にします。名言と呼ばれるものには、おおよそ二種類あって、ひとつは誰もが経験的に知り得ている人生訓をもっともらしい言葉にし直しただけのもの、もう一つは偉人が発した言葉のすべてです。僕はある期間、毎日名言を目にしてきましたが、残念ながらそれだけで好転するほど人生は簡単ではありませんでした。そのリバウンドなのか、むしろ普通の人が発する何気ないひと言に心奪われやすい傾向があります。『情熱大陸』が魅せる陰影もいいですが、『ザ・ノンフィクション』が放つ鈍色の現実もまたいい。それゆえ僕のような普通の人間がコピーライターになるまでの凡庸な物語も誰かのお役に立てるかもしれないと思い至り、薄れゆく記憶をたどりながら書きとめることにしたのです。
昨今、著名なコピーライターの方々がコピーライターにまつわる本を出されています。コピーライターを目指す人の教科書として本屋さんやAmazonに並んでいます。僕もかつてはそれらをたくさん購入して、熟読しました。師匠を持たない私はコピーライターのイロハをその本たちから学びました。コピーの書き方やコピーライターとしての心構えまで。そのなかで、どうしても真似できないことが一つだけあることに気がつきました、それが経歴です。
著者の華々しい経歴だけはどうにも真似ができない。名のある広告代理店やプロダクションからコピーライター人生をスタートした人と広告とは無縁な毎日を過ごしてきた者が同じ道を同じ速度で歩んでいても同じ土俵に立つのは難しい。それがたくさんの本から学んだ最も切実で大切なことでした。
僕がコピーライターになろうと決めたのが26歳、誇れる学歴もなければコネも知識もない、お金なんてマジでない若者が急にコピーライターを目指すにしても、何から初めていいのかわからない。まず手始めにしたことが三年勤めていた会社を辞めたことなので、スタートから崖っぷちとなってしまいました。
人見知りが災いして誰に相談することもなく、わからないことをわからないままにして、だいぶ遠回りをしましたが、いつの間にやらコピーライターとして新聞やラジオ、OOHや当時はまだ珍しかったWEBメディアでコピーを書ける日が来ました。あの頃、絶望と公募に明け暮れていた自分に教えてあげようにもそれはまだ難しいので、今現在、同じような境遇の方にお伝えできればと思います。メインストリートではない裏道からコピーライターになる術を、生き抜くサバイバル術を、名言などはひとつも出てきませんが、それでもどなたかのお役に立てれば嬉しいです。