踵を踏んで

2018年3月26日(月)

 

大江戸線から半蔵門線に乗り換えるために青山一丁目駅をよく利用しますが、大江戸線の青山一丁目駅は改札階とホーム階とを結ぶ階段が非常に狭くラッシュ時でない時間帯でさえ昇りエスカレーターに長蛇の列ができます。

 

 

その行列をのそのそとどれほど注意深く歩いてみても三回に一回は踵を踏まれます。昨日も踏まれました。きっと明後日も踏まれます。

 

 

いつもより多めに靴の踵を踏まれ出したらそれは春のせいだと考えられます。 エスカレーターに並ぶ人の列にも少なくはない春が混じりだしたのです。それはつまり青山一丁目駅に不慣れなフレッシャーズの仕業ということです。暖かい気持ちでやり過ごさなくてはなりません。ぼくだって青山一丁目駅歴の浅い頃はたくさんの踵を踏んでいました。まったく覚えていませんが。踏む側は忘れやすいものです。

 

 

「靴の踵を踏んではいけませんよ」

 

 

そう教えられてぼくは育ちました。踏んではならない踵を踏む罪悪感、踏まれてしまう居心地の悪さ。たくさんの踵を踏みながら踏まれながら、その度に正しながら人はその土地に自らの歩みを馴染ませていくのではないでしょうか。

 

 

下駄箱にしまいこまれた運動靴が日の目を見たら雪国の長い長い冬も終わりです。子供の頃は数ヶ月ぶりに足を入れる運動靴が嬉しくて雪解け間もない土手やあぜ道を駆けずりまわりました。ふきのとうを採りながら真新しい春を身体に馴染ませるように。少し小さくなった運動靴の踵を踏んで叱られながら。

 

 

 

投稿者 片塩 宏朗

お読み頂きありがとうございました。コピーライターをしています。好きなランニングと短歌について時々書きます。フルマラソン:3時間15分28秒、ハーフマラソン:1時間27分59秒、シューズはasicsです。

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