「地獄谷野猿公苑」は長野県北部に位置する志賀高原や湯田中渋温泉でも有名な山ノ内町にある野趣あふれる観光スポット。野生のニホンザルが温泉に浸かるレアなシーンを観察できるとあって近年は外国人観光客に絶大な人気を誇ります。なぜそこまで外国人の心を惹きつけるのか?その理由を探しに「地獄谷野猿公苑」を訪ねました。
野生のサルたちが暮らす「地獄谷野猿公苑」への玄関口、人里離れた山の中へといざ参ります。ビニール袋や食べ物を持ち歩くと襲われる確率があがりますので厳禁とのこと、食べ物のイラストにおにぎりではなくホットドッグが採用されていることからも外国人観光客の多さが伺えます。
山の中に拓かれた歩道を1.6km歩きます。激しいアップダウンはほとんどありませんが、ご覧の通りの山道、アスファルトの1.6Kmよりは大変です。お年寄りや幼児には果てしなく感じるかもしれません。ベビーカーや車椅子でもギリギリ行けるほどに地面は幾分固められていますが、車輪も靴のソールも泥にまみれますのでそれ相応の装備と覚悟が必要です。
歩道横の水路からはほんのりと硫黄の香りが漂います。森の木々と温泉の香り、サルに会うまでの長い道のりも森林浴と考えれば随分と快適なものになりました。この日はすれ違う9割以上が外国人の方、フランス語を多く耳にした気がします。日本人が日本にいながら味わえるマイノリティー気分を楽しみながら進みます。
道中に立てられた看板が残りの距離とサルの生態を教えてくれます。先が見通せない山道ではありがたい情報でした。それにしても陽射しの届かない山の中は5月でも寒い!晴れているとは言え標高850mの高地、Tシャツとスウェットだけでは耐え難い寒さです。
林を抜けると突然目の前が開けます。そこは険しく切り立った崖に囲まれた横湯川の渓谷。「地獄谷野猿公苑」はもう少し先ですが、すでにサルたちの生活エリアとあってあちらこちらにいらっしゃいます。この橋の上なんかは糞だらけ、さながらサルたちの便所といった様相です。奥に見える建物は地獄谷温泉の一軒宿「後楽館」、ニンゲンが入浴できる露天風呂があります。
最後に出現する急登をなんとか登りきり、入苑料大人800円を支払っていよいよ「地獄谷野猿公苑」に突入です。なんの仕切りも檻もなくサルが目の前にいます…怖い!まだサルに慣れない身体にはサルの一挙手一投足が怖くて仕方ありません。サルは“目を合わせると危険”という小学生の頃うけた教えを思い出し、サルとサルの糞を丁寧に避けながらそそくさと苑内を進みます。
少しサルに慣れたところで穏やかそうなサルに近づいてみました。物憂げな表情をしています、向こうも目を合わせるのを避けているような面持ちです。サルだってニンゲンは怖いのでしょう。お互い無関心を貫くのが良いようです。器用そうな手先がなんともかわいい。サルはニンゲンを見て何を思うのでしょうか。
たくさんのサルを目にして興奮を隠せませんが、あくまでお邪魔させて頂いている身、立場をわきまえなくてはなりません。小さな男の子が急に走り出したのを見てサルがブチ切れキィーキィー威嚇していました。やんちゃ盛りなお子様も要注意かもしれません。
これが温泉に入るサル「Snow Monkey (スノーモンキー)」として世界から注目を浴びるサルたちの露天風呂。サル専用だけあってやや浅めですが広さは充分、何よりロケーションが素晴らしい。これはサルでなくても入りたい。
残念がならこの日は入浴者ゼロ。それもそのはずサルが温泉に入るのは“暖まるため”だけ、春〜秋に入ることはほとんどないそうです。しかも入浴するのはメスと子ザルのみ、従ってこの露天風呂は女湯です。
オスは群れを守るためにすぐに行動できる態勢をとっているからと、毛が濡れて自身の体が小さく見えるのを嫌うから、温泉には入らないと考えられています。(Wikipediaより)ニンゲンもサルもオトコはいろいろ面倒ですね。
こちらは岩に蒔かれたエサをむさぼり食うサル。麦のようなものを手で掴んで口に運んでいます。このエサを求めてサルたちはここに集まります。つまりサルたちにとって「地獄谷野猿公苑」は食事処。お腹が空いて近くに食べるものがなければ山から出てきます。
この山肌に作られた岩場にはたくさんのサルがいます。食事をするもの、遊ぶもの、昼寝するもの、毛づくろいをするもの、反省するサルは一匹もいません。
春は出産のシーズンのようで授乳中の親子の姿が数多く見られました。ニンゲンのそれとそっくりです。まじまじ眺めていたら移動されました。
大きなカメラでサルに密着する外国人の方。みなさん熱心にご覧になっていましたが女性の方が特に強い関心を示していたように思います。
ニホンザルが露天風呂に入る─、世界でも「地獄谷野猿公苑」でしか見られない稀有な場所であることは間違いありませんが、外国の方が殺到するにまで世界的な人気となったのは、1998年冬の長野オリンピックの際にたくさんの外国の方が来苑し、それを機に各国メディアに紹介されるようになったから。(公式HPより)
我々露天風呂大好き民族でさえ雪の中、顔を赤らめうっとりしているサルの入浴シーンには心を惹きつけられるのに、露天風呂文化のない外国人の方々にしてみれば“飛び級”で心奪われたことと思います。
日本の四季が織りなす自然環境、温泉・露天風呂の文化、そして野生のニホンザルの生態、ここには昔からほとんど変わることがない日本の姿がありました。
進化の過程で袂を分けたとは言えもともとは同じ種。空とサル好きに国境はないようです。今度は冬に訪ねてみます。