すこし昔、いつも顔を合わせる猫がいた。真っ黒で、痩せている、のら猫らしい猫。
おばちゃんはクロちゃんと呼んでいた。
とても人懐こくなく、可愛げがない。それでも小さな公園に毎日やって来る優しいおばちゃんがいる時だけスルスルと申し訳なさそうに現れてご飯をちょっとだけ食べた。
ご飯を貰うのはいつも最後で、隅っこの方で独りでカリカリ食べていた。そして少し寝た。
争いに弱く、その季節になるといつも傷だらけになって痛々しかった。
どういう訳か全く声を出さなかった。(出せなかった?)とうとう二年間、一度も鳴き声を聞けなかった。
その割には、いつも物言いたそうな顔で、じっとこちらを見ていた。
それは、見ているこちらが心配になるほど不器用で萎えた。好かれる自分を演じることが苦痛なようだった。
小さな公園にはいつも独りでやってきて、独りで帰っていった。
仲間と無邪気に戯れたり、擦り寄らずに、ひとりでぼーっとしている時間が好きだった。周りもそのことを知っているようだった。
まれに、いつもの公園から離れた民家の庭先でバッタリ会った時もやっぱり独り。
もう少し愛想を良くすれば好かれるものを、その第一印象の悪さでは、第二印象までも進めまい。
あえて声には出さないけど、いつも思っていた、他ののら猫たちと仲良くなれない、とても不器用な人間だなぁと。