実業団女子駅伝チームの移籍・退部事情<2018春>

春です。ホームページの巡回を日課としている実業団駅伝チームからも続々と所属選手の名前が消えてゆく寂しい季節となりました。

 

プロではないけれど世間的にメジャーなスポーツの闇の深さがなにかと話題ですが、人は偉くなると欲が黙っておられないのでしょうか。ハラスメントできるほどの有り余るパワー、まだまだ掘ればたくさん出て来そうな勢いです。魔闘気が溢れて仕方ないカイオウみたいな方々が世の中にはたくさんいらっしゃいます。これがケンシロウ不在の北斗の拳だとしたら本当に世紀末です。

 

その一秒を削り出せ!

 

Qちゃん二世の誕生だ!

 

マラソン日本復権へ!

 

そんな大声とは裏腹に実業団駅伝界の移籍や退部についてのお話は小声でされるようで駅伝ファンのぼくの耳にもなかなか届きません。移籍に関しては少し前まではタブー視されていたきらいもございます。

 

どうして?その答えを推測したくて移籍に関するルールを調べてみました。

 

「一般社団法人日本実業団陸上競技連合登録規程」

 

毎度マラソンオリンピック代表をドラマチックに選出し話題をかっさらうあの“陸連”が定めた規定です。ひらがなもカタカナも寄せ付けないところにカイオウ感が出ています。

 

第6条(移籍者の取扱い)
所属する法人と資本関係のない法人のチームへ、チーム登録者が移籍する場合は、元のチームの陸上競技部長と監督連名の退部証明書を交付された者(以下、円満移籍者という) についてのみ、第4条第2項または第3項に従って新チームで登録申請を行うことができる。申請に当たっては地域連盟事務局に退部証明書を提示しなければならない。

 

2.円満移籍者でない者の登録申請は無期限で受理しない。

 

3.所属するチームが廃部となるなど、登録者の責によらない事由により競技活動の継続が不可能となって移籍に至る場合は、退部証明書を要さない。また、第4条第3項は適用せず、常時、追加登録申請を受け付ける。

 

 

所属実業団チームの部長と監督に嫌われたら“おしまい”のわかりやすさを極めたルールです。では、円満ではない移籍者はどうなるのでしょうか?続いて第7条を見てみます。

 

 

第7条(制 裁)
次の各号の一に該当する登録者ないしチームに対しては、登録を抹消し、または申請を拒否し、もしくは所管競技会への出場停止を科すことがある。

 

Ⅰ.退部証明書を持たずに新たなチームに移籍しようとする登録者。

 

Ⅱ.退部証明を持たないことを承知の上で、前項の登録者と労働契約を締結し、迎え入れたチーム。登録申請の有無に関わらず、チーム加入の事実をもって制裁する。

 

Ⅲ.この法人の定款、本規程、その他諸規則に違反し、この法人もしくは地域連盟の登録者、所属チームとしてふさわしくない言動があったと認められた登録者ないしチーム。

 

2.前項第3号の場合で、この法人の目的に反し、その名誉を著しく傷つける行為があったと認めたときは除名の措置をとる。

 

 

答えは「制裁」です。つまりこの場合は移籍できないわけですから制裁=引退と考えられます。足が早かろうが努力をしようが才能がずば抜けようが移籍に必要なものは「円満」です。この腫れ物に触れることを嫌う奥ゆかしさこそが実業団選手の退部や移籍について小声にならざるえない一因かもしれません。

 

選手自身の意志による移籍は極めて困難であることがわかりました。圧倒的に選手が不利に見えますが、それがプロと企業スポーツの越えられない壁。もし実業団チーム同士の移籍がプロスポーツのように自由化してしまえばマネーゲームや引き抜き合戦となるのは必至、企業スポーツは成立しません。選手はあくまで“社員として走らせて頂いている立場”その実業団的思想をただのファンであるぼくも再認識させられました。

 

であるからこそ社員の退社をいちいちアナウンスする必要があるのか?そんな会社側の考え方もわからんでもありませんが、選手である以上は応援しているファンもおります。お知らせするのがファンサービスでありステークホルダーを大事になさるCSR的な見地からも必要ではないでしょうか。

 

今はどの実業団チームもホームページをお持ちですから、いくらでもアナウンスができましょう。ホームページのページビュー数の割には更新費がかさむのもわかります。しかし世の中には更新されないとわかっていても毎日見に行ってしまう無駄足を惜しまない者もいるのです。

 

ホームページにおける退部のお知らせには下記の3パターンがございます。

 

1.退部選手のコメントを掲載するチーム

2.退部選手の名前だけを掲載するチーム

3.ただ名前だけを削除するチーム

 

言わずもがな対応1は素晴らしい、対応2はありがたい、対応3は悲しい、です。どれを選択するかでチームの好感度が大きく左右されることに気づいておられないチームが多すぎます。(つまり対応3がまだまだ多いのです)

 

余談になりますが、仕事上ホームページ制作にかかわることが多いぼくが選ぶ最も好感度が高いホームページ2018に輝いたのはキャノンAC九州さんです。おめでとうございます。

 

 

受賞理由はデザインやユーザビリティ、モバイルファーストなどの観点でも素晴らしいのですが、決め手はやっぱり更新頻度の高さと退部者のコメントを必ず掲載するファンへの優しさです。そして移籍が活発なチームな上に“退部者が引退後に会社に残りがち”な点もホームページには関係ありませんが大きなポイントです。内情はどうあれ傍から見ていていい会社に見えています。実業団女子駅伝の晴れ舞台「クイーンズ駅伝」への出場こそ逃し続けていますが、ブランドイメージのUPは成功しておられます。うちのカメラはニコンでプリンターはエプソンですが次はキャノンになるかもしれません。

 

何度も申し上げますが今まで応援していた選手がある日突然なんの告知もなしにホームページから姿を消すのは本当に寂しいものです。が・・・、そんな寂しい思いをした割には1年も経てば誰が退部したのか忘れてしまう自分もいます。と言うことで2018年版の退部者を興味が行き届く範囲でまとめました。とりあえず実業団女子篇です。

 

※敬称略させていただきます。
※(引退)は引退のお知らせがあった選手です。

 

2018年実業団駅伝女子退部者一覧

ヤマダ電機
・高田 晴奈(引退)
・渋谷 璃沙(引退)
・横瀬 彩也香(移籍→エディオン2018年7月)

日本郵政グループ
・岩橋 優(引退)
・岩髙 莉奈(引退)
・東出 早紀子(引退)
・中川 京香(引退)
・廣瀬 亜美(引退)
・上原明悠美(引退)

第一生命グループ
・田中 華絵(移籍→資生堂)
・三ヶ田 楓

デンソー
・橋本 奈海(移籍→三井住友海上)
・岡 未友紀
・スーサン ワイリム
・光延 友希
・足立 知世

九電工
・園田 聖子

ワコール
・樋口 紀子(引退)
・髙木 萌子
・小指友未(→埼玉医科大学グループ)
・幾野由里亜(→小島プレス)

天満屋
・重友 梨佐(引退)
・翁田 あかり
・和田 実
・小田切 亜希(→竹村製作所)
・寳田 彩香(→愛知電機)

資生堂
・竹中 理沙(引退)
・池田睦美(2017年移籍→エディオン)

ユニバーサルエンターテインメント
・米谷 結希(→愛知電機)
・中村萌乃(引退)
・瀧紋奈

豊田自動織機
・万代 美幸
・横江 里沙(移籍→大塚製薬)

パナソニック
・加藤 麻美(引退)
・鈴木 ひとみ(移籍→愛知電機2018年6月)

積水化学
・尾西 美咲(引退)
・桑原 彩(引退)
・廣田 麻衣
・森京香

シスメックス
・西川 生夏(引退)
・宗廣 閑那(引退2018年7月)

ホクレン
・岡田 芽
・上村 英恵
・内山 千夏

しまむら
・下門美春(2017年移籍→ニトリ)
・三浦奈々

ノーリツ
・岩出玲亜(2017年移籍→ドーム)
・下山 かなえ
・井上 藍
・海野 佳那

三井住友海上
・日髙 侑紀
・阿久津 有加(移籍→ラフィネ)
・折野 加奈
・中島 葵
・九島 麻衣子
・野田 沙織(移籍→肥後銀行)
・目野 良佳

日立
・菊池 理沙
・田山 絵理
・藤田 愛香里(引退)
・オバレ ドリカ(引退)

十八銀行
・前川 晴菜
・古賀 悠華

ルートインホテルズ
・石川 涼音
・矢作 佳南子
・田口 奈緒

大塚製薬
・内田 梨絵

キャノンAC九州
・竹本 由佳(引退)
・宇都宮 亜未(引退)
・天児 芽実(引退)
・下藤 ひとみ(引退)
・川嶋 利佳(引退)
・竹上 千咲(2017年移籍→ダイハツ)
・真柄 碧(2017年移籍→資生堂)

TOTO
・嘉本 彩佳
・川上 さくら(移籍→ノーリツ)
・川上 わかば(移籍→ノーリツ)

エディオン
・西 捺帆(引退→マネージャー)
・若林由佳

宮崎銀行
・宇都宮 亜依
・中村 祐希

愛知電機
・鈴木 翔子(2017年移籍→ヤマダ電機)

ユニクロ
・田村 紀薫(移籍→日立2018年7月)

 

どの業界でも個人的わがままによる移籍は容認されるべきではありませんが、例えばマラソン指導に定評のある監督にスカウトされて入社したら監督は半年でクビとなり後任監督がトラック重視の方針を打ち出したらどうしましょう?マラソンを走りたくて選んだチームが駅伝専門となったら?チームの水に馴染めなかったら?その選手に残されている道は引退しかないのであればとても残念なことです。

 

世界の舞台で結果を残すために必要なのは選手の努力だけでは足りないことを組織にいらっしゃる方々も含めてそろそろ本当に考えなければならないのではないでしょうか、陸上界にもハラスメントブームが席巻する前に。選手が社員であるならば転職する自由だって残されているはずです。陸上界にも暖かな春がやってくることを願うばかりです。

 

 

 

投稿者 片塩 宏朗

お読み頂きありがとうございました。主にコピーライターをしています。好きなランニングと短歌について時々書きます。フルマラソン:3時間15分28秒、ハーフマラソン:1時間27分59秒、好きなシューズはasicsです。