マラソングランドチャンピオンシップ【結果篇】

富士通と天満屋の活躍が印象的だったMGC。内定者4名のランシャツは男子はデサント(富士通とトヨタ自動車)女子はアシックス(天満屋、JP日本郵政)に二分、シューズは中村、服部、鈴木選手がNIKEのヴェイパーフライ ネクスト%、前田穂南さんのみアシックスのSORTIE JAPANでした。前田さんの蹴り上げない走法では厚底は不要なのかも。とりあえずアディダスがだいぶ苦しい結果となったのは確か、ワコールと第一生命の今後に注目です。

 

1位 中村匠吾 (富士通)2:11:28
2位 服部勇馬 (トヨタ自動車)2:11:36
3位 大迫傑 (Nike)2:11:41

 

1位 前田穂南(天満屋)2:25:15
2位 鈴木亜由子(日本郵政グループ)2:29:02
3位 小原怜(天満屋)2:29:06

 

1〜2位は東京オリンピック内定、3枠目についてはMGCファイナルチャレンジ設定記録を突破した者の中から上位1名が選ばれます。冬のマラソンとは言え設定タイムは非常に厳しく男子は日本記録が必要です。大迫選手が持つ日本記録と戦えるのは現段階では設楽選手くらいか。女子の方がまだ現実的なタイム設定とは言え、それでも22分22秒は厳しい。MGCファイナルチャレンジ設定記録を上回る選手がいない場合は、MGCの3位が選出されるので、男子は大迫選手が俄然有利、女子は福士選手、前田彩里選手、安藤選手など、持ちタイムから考えればファイナルチャレンジから選出される可能性はないとは言えませんが、果たして…。

 

MGCファイナルチャレンジ設定記録
男子:2時間5分49秒
女子:2時間22分22秒

MGCファイナルチャレンジ該当レース
<男子>
2019年12月1日
福岡国際マラソン選手権大会

2020年3月1日
東京マラソン

2020年3月8日
びわ湖毎日マラソン大会

<女子>
2019年12月8日
さいたま国際マラソン

2020年1月26日
大阪国際女子マラソン大会

2020年3月8日
名古屋ウィメンズマラソン

 

男子は3大会とも日本記録を狙うのは厳しいコース。冬のマラソンは強風も敵、レースコンディションに大きく左右されるためお天道様も味方につけなければなりません。女子選手はタイムが出やすい名古屋ウィメンズで狙うはず、福士さんだけが相性がいい大阪国際を走りそう。

 

さてお話はMGCに戻ります。レースは男女ともに自転車ロードレースのような展開になりました。男子はスタート直後から設楽選手が大逃げを決め、レース中盤では集団から2分以上のリードを奪うも37km過ぎに吸収され撃沈。女子は一山さんがこちらもスタート直後からハイペースで集団を牽引。まるでチームのエースを勝たせるためにライバル選手の脚を使わせるツール・ド・フランスの山岳ステージが如く展開でした。

 

設楽、一山両選手は集団でレースを進めていたら2位以内に入れたかもしれませんが、そこは二人の持ち味。一発勝負の大舞台でスタートからあの走りができる選手は稀有な存在、無謀と言えばそれまでですが、世界と戦うにはこの無鉄砲さが武器となるはず、この経験を糧にした二人の今後に期待大です。

 

事前予想では、終盤まで大集団を形成して30kmを過ぎてから勝負する展開を考えていましたが、そんな消極的なレースを選ばなかったことに、トップランナーたちのプライトと志の高さを感じました。日本マラソンの弱体化を箱根駅伝に押し付けてきた方々も少しはご満足いただけた内容であったと思われます。スタートから男女ともに脚を使わざるをえないタフなレースとなった為、最後は脚のスタミナ勝負、暑さへの強さと練習量がダイレクトに反映された一発勝負に相応しい結果となりました。

 

優勝した中村選手は毎年8〜9月になると好調になる身体を自負していた、「MGCは暑くなれ」と願い続けていたほど暑さを苦にしない能力の持ち主だったようです。マラソンが夏季オリンピック種目で本当に良かった、強い選手からめちゃくちゃ強い選手にクラスチェンジしましたので、これからは注目される立場、プレッシャーとも戦わなければなりません。2位服部選手のオリンピックに賭ける思いはその準備に現れていました。スペシャルドリンクを首にぶら下げての落ち着いた給水や頻繁に氷で体温上昇を防いでいたこと、冷静に自分の身体をケアしながら状況を観察しながら走っていたと思います。最終盤の登りでもいちはやく2位狙いに切り替えて脚を残したのも良かった。すべては目標を達成するため、クレバーさと根性を併せ持つ服部選手らしい素晴らしいレース内容でした。レース中盤で東洋大の先輩山本選手(マツダ)と話している姿、あーゆーところがまたかっこいい。

 

4強の一角、井上大仁選手がまさかの失速で完走者27名中、最下位。優勝候補と目されたプレッシャーか、はたまた体調不良などの要因があったのか。勝負する前に失速してしまったのでその理由はわかりません。今までは実力者でありながら大迫、設楽などのスター選手に隠れる形になっていましたが、このMGCでは優勝候補として日の当たる場所に担ぎ出され、これまでに感じたことのない見えない疲労が蓄積していたのかもしれません。多くのカメラや世間の目にさらされる、大舞台で結果を残す難さです。逆にさらされていなかった九電工の大塚選手や富士通の鈴木健吾選手の活躍は素晴らしかった。速くて記録を出せる選手もいいが、やっぱり強くてタフな選手に惹かれます。

 

女子優勝の前田穂南さんは、あのカリカリになった姿を見る限りエゲツない走り込みをしていたのは明らか。冬のマラソンならば風邪をひいてたかもしれないギリギリの調整であったと思います。3位になった小原さんの結果も含めてさすが選考会に強い天満屋。武冨監督に鬼のよう走らされたと思うとぞっとしますが、圧巻の強さでした。これ以上の無理は調子を大きく崩しかねませんので、まずはゆっくり休んで頂きたいです。2位の鈴木さんはさすがのレースでした、“42kmいろいろなことがありましたが、実力で最後まで走りきりました”そんな印象です。ゴール手前で脚を使い切りフラフラでしたが、マラソン二回目の選手があの展開で2位に入るのだからさすがとしか言えません。この経験がまたさらに彼女を強くしてくれるはず、不安材料は故障だけ、そこに気をつけてあと1年を過ごして頂きたいです。両名ともに北海道マラソンの優勝経験者、やはり夏には夏の経験が必要というわけです。

 

一山さんのハイペースの被害者となってしまったのは松田瑞生さん。予想外の速いペースに戸惑い、早々に集団から遅れる苦しい展開に。一時は集団に追いついたのはさすがでしたが、ペースの上げ下げで相当な体力を消耗してしまったのは悔いが残るところ。松田さんの力からすれば4位は失敗レース。一山さんのハイペースは予想できなくもなく、あれを想定外としてダメージを受けてしまったのはマネジメントしているチームの責任とも考えられます。事前に安心材料を多く与えるべきでした。対して最下位からのスタートで一人旅を選んだ野上恵子さんは5位でゴール。自分のペースで刻んだラップは見事、ハーフ以降のタイムは全体の2位、これもマラソンの面白さ。

 

オリンピックを一発勝負で決める初めての試みでしたが、改めてマラソンに注目を集める機会にもなりましたし、ペースメーカーのいないトップ選手同士のガチンコ勝負に新しいマラソンの魅力を見たような気がします。暑い中に走る選手のみなさんはしんどいですが、夏のマラソンは面白い、暑さと戦う姿は美しい。東京オリンピックのマラソンが楽しみです。選手のみなさん、本当にお疲れ様でした。

 

 

投稿者 片塩 宏朗

お読み頂きありがとうございました。主にコピーライターをしています。好きなランニングと短歌について時々書きます。フルマラソン:3時間15分28秒、ハーフマラソン:1時間27分59秒、好きなシューズはasicsです。