お正月は故郷に帰省したこともあってニューイヤー駅伝はほとんど見れず、箱根駅伝は往路7割、復路3割くらいのテレビ観戦。正月三が日のすべてを駅伝観戦できるほど実家にはテレビが余っていないのです。それにしても箱根駅伝が箱根町にもたらす宣伝効果は尋常なものではないと思われ。年末年始の短期間であれだけ“箱根”を連呼してもらえるのだからそりゃ箱根の温泉旅館は強気の料金設定ができるわけです。
ゲスト解説に訪れていた大迫傑選手が「区間20番目の選手にも発見があるかもしれないから先入観なく見たい」そのような内容のことを仰っていましたが、さすが大迫さん、喋りもうまい。
箱根のスターがそのまま日の丸を背負うのかと言えばそんなエスカレーターは存在せず、箱根を区間下位で走りマスコミからもそっぽを向かれていた選手が後々日本代表になることもあります。2005年、拓大4年時に箱根を走った中本健太郎選手(安川電機)も7区区間16位。その7年後にはマラソン日本代表としてロンドンオリンピックに出場しています。まさに大迫さんの仰る通り、箱根駅伝には目を離していい選手などいません。
サッポロビールが手がけた箱根駅伝TVCMのコピーが素晴らしい。
まさにこれこそが新年早々に日本人の心をひきつけて止まないお化けイベント箱根駅伝たるゆえんと言えます。
そんな主役揃いの箱根駅伝のランナーから印象に残った選手を挙げてみます。(テレビ中継に映るランナーから選ぶので有名な選手になりますが)
西山和弥選手(東洋大学1年:1区 区間1位)
新陳代謝が上手な東洋大にまたまた登場したエース候補。1年生ながら日本インカレ10,000m3位(日本人1位)、出雲駅伝1区5位、全日本大学駅伝3区3位と右肩上がりのまま臨んだ箱根駅伝。20kmへの不安も終わってみればライバル達をちぎっての区間賞。1年生でこの走りはすごい。逆に1年生だからできたのか。身長も低すぎず高すぎず均整のとれた体型から繰り出すランニングフォームが美しい。体幹も安定して動きもしなやか、怪我もしにくそうな走りは将来性抜群の逸材。ここから注目度がぐっと上がりチヤホヤされまくるはずなので、本当の勝負はこれから。でも憧れが大迫選手とのことなのでその目は世界を見据え続けられるか。来年も1区、もしくは2区での起用が面白そう。
シテキ・スタンレイ選手(東京国際大学4年:3区 区間20位)
東京国際大の稼ぎ頭、ケニア人留学生のスタンレイ選手。3区にエントリーした時点で“2区までの遅れを取り戻して山に繋げる作戦”であることは明確でしたが、まさかの区間最下位!東京国際大が目標としていたシード獲得を絶望的なものにしてしまう衝撃的な走りでした。外国人留学生と言えば、“ごぼう抜き”がお馴染みの光景で恐らくスタンレイ選手に課せられたテーマも5〜6人抜きだったはず。それが終わってみれば区間1位に5分離される最下位!二年前の箱根でも2区区間13位と、1万mの持ちタイム28分31秒12からすれば箱根ではあまり力を出せていない印象。スタンレイさん…、きっと寒さが大の苦手なのでは?この装備と表情の強張りを見る限り走る前からテンション低!ケニア人留学生だって人間であることを改めて感じさせてくれました。
中島怜利選手(東海大学2年:6区 区間2位)
戦前の予想を(悪い方に)覆し往路を9位で終えた東海大学の6区を二年連続で任された二年生。低い身長を活かして弾丸の如くパワフルに駆け下りて区間2位をゲット。その表情からも自信が溢れ、前を追う眼差しも強い、それでいてレース運びは至って冷静なのが印象的でした。豊富な練習量と入念なレースシミュレーションを伺わせる素晴らしい走りっぷりは、スピードスター揃いの東海大学2年生にあって異質な職人タイプのランナーといえます。駅伝はこのようなスペシャリストがいるチームが強く、来年は東海大学にも優勝のチャンスが充分あり。中島選手も来年は区間賞を狙う立場となり格段に注目度は上がりますが、トラックシーズンは鳴りを潜めてでも、また箱根でのバクハツを期待したいです。でも、この筋肉質でパワフルな走りは登りの適正もあるように思いますので5区でも面白い存在になるかもしれません。
工藤有生選手(駒澤大学4年:7区 区間14位)
駒澤大学のエースが繋ぎ区間の7区にエントリーされた時点で状態の悪さが想像できましたが、やはり本調子にはほど遠い姿で最後の箱根を走った工藤選手。報道によると左脚に力が入らない状態が3年生の夏頃から続いているとか。これは長距離選手特有の“脚が抜ける”症状では?あの野口みずきさんも晩年悩まされたやつ。工藤選手も明らかに左脚が抜けていてフォームが大幅に崩れていました。それでも見るに堪えないあの状態で7区21.3kmを区間14位で走りきったことは、さすがに駒澤のエースです。この箱根駅伝が陸上人生最後のレースならこの起用もありかなと思いますが、今後は世界を目指し実業団のコニカミノルタに進む逸材。この無茶振りが今後の競技人生に大きな影響を残さなければいいのですが。鬼と呼ばれる大八木監督が鬼になり切れなかった采配、できることなら箱根は回避して欲しかった。
出走した210人による210通りのドラマも青山学院大学の4連覇という結果とともに幕を閉じ、話題はまたマラソンの次世代スター探しに。箱根の事前報道などを見る限り今回新たにスター候補の仲間入りをしたのは神奈川大学の鈴木健吾選手。マスコミの取材攻勢をものともせず進路先の富士通から世界へステップアップできるのか。
箱根駅伝経験者からオリンピックメダリストが未だに生まれていないことがしばしば報道されていますが、日本の男子マラソンが今まで獲得したメダルはたったの三つ(円谷幸吉:銅、君原健二:銀、森下広一:銀)。その中でも二つは東京とメキシコなので今から50年前の話しです。箱根駅伝に罪をなすり付けるには無理があります。
最近は箱根と世界を同時に見据えている選手も多く、実業団に属さずに日の丸を背負う川内優輝選手や大迫傑選手など自己マネジメント能力がずば抜けている異彩も台頭しています。この二人のブレない背中を見ればわかるように世界と闘うには何を目指して、今、必要なものをきちんと把握できる能力、そしてそれを遂行する意志と環境づくりが必要です。だからこそ実業団を辞めたからといってマラソンが強くなるとは限りませんし、箱根が世界への遠回りになるとも思えません。
マラソンの調整を優先しニューイヤー駅伝を欠場する選手もでてくるなど少しずつですが実業団と選手の契約内容も変わりつつあるように思います。箱根駅伝経験者からメダリストが誕生するのも時間の問題(と信じたい)。個人的には東洋大の元エースで現トヨタ自動車所属の服部勇馬選手に男子マラソンの未来を託したい。