長距離走の才能に恵まれた人たちは年末年始をのんびり過ごしたことがないんだろうな。なんてことを毎年のように考えてしまう師走です。世の中はクリスマスやお正月で浮足立つシーズンに駅伝やらマラソンやら本当にお疲れ様だと思います。つくづく才能豊かな人たちは、ふつうの生活は送れないものです。ニューイヤー駅伝と箱根駅伝がもうすぐです。
駅伝やマラソン中継を見る楽しさは、ひいきのランナーを応援することはもちろん、レース展開や結果そのものだけではなく、一流選手たちのランニングフォームをつぶさに観察できることにあります。箱根駅伝やニューイヤー駅伝なんてまさにランニングフォームの品評会。それ目線で見るとすべての選手から目が離せません。
いいランニングフォームは効率の良いフォームと言われます。労せずして遠くまで行ける、車で言えばプリウスのようなものでしょうか、少ないガソリンで遠くまで走れる燃費のいいやつ。ただしギアを変えればスピードもきちんと出せるやつ。背筋がピシッと伸びて腰高で程よい前傾姿勢、きちんと引かれた腕から骨盤にエネルギーを伝えて上半身と下半身をスムーズに連動させる。それがプリウス的走りを実現できる良いフォームだよってだいたいの場所に書かれています。
うんうん、わかる。言いたいことはわかる。ただそんな2〜3行で書けることが簡単にはできないのがランニング。
言い訳を言い出したらキリがありませんが、ぼくは身体が硬すぎます。
股関節が硬いので脚が全然あがらない。そして肩が硬い。肩が前に入りすぎていて肘が引きにくい。どのマッサージ店でも必ず「肩、かなり前に入ってますね」と言われます。初対面の人に、それもまだ出会って5分くらいの人に言われるほどわかりやすく入っています。
そして筋肉量も足りない。着地の衝撃を吸収し身体を支える重要な尻の筋肉が足りないから、マラソン終盤にガクンと腰が落ちます。
致命的なことは練習量が足りない。4年前“ものは試し”とばかりに体幹トレーニングの本を購入し毎晩寝る前に実践したところ、あれよあれよとタイムがあがり終盤まで粘れる走りができた。あれから4年、鍛えた体幹はどこかに消えた。サボればサボるほど0に戻るのがトレーニングの悲しいところです。どうせ0に戻るなら最初からやらない方が…そんな邪念も芽生えます。
理想のフォームはあくまで理想論であり、ベストのフォームは人それぞれ。性別・年齢・体型・骨格・筋肉量・無論、走力と、枚挙にいとまがないくらい人はみんな違います。だからこそ、駅伝やマラソン中継でたくさんのランナーが披露してくれる十人十色のランニングフォームはとても参考になるのです。背格好が近い人を見つけて真似る、もしくはかっこいいと思う選手を見つけて真似するのが早い。そこで見たイメージを頭の中に焼き付けて走ればいいんだから。
そしてショーウィンドウやガラス扉に映る自分の走る姿を見て愕然とし、その理想とのギャップを埋める作業をするのです、なにしろランニング中は暇ですから。腕が下がりすぎていてダサいな、ストライドが全然なくてスピード感がないな、背筋を過剰に伸ばそうとするあまりに後傾しているなぁとか、走るそばから反省会をして理想のフォームを追いかけていきます。
ぼくが追いかけたい理想のランニングフォームはやっぱりこの人、佐藤悠基さん(佐久長聖-東海大学-日清食品グループ)。きっと多くの人が参考にしていると思えるほどの理想さです。
なんと言っても目を引くのが上半身の余裕さ。力感がまるでなく常時リラックスしてる、それでいて脚の蹴り上げは強くてグイグイ進んでいく。この上半身と下半身の別人格さがお洒落。速そうに走っていないのに速い。これ、かっこいい。淡々と走るポーカーフェイスぶりも込みでいい。
それと同じ理由で女子選手ならこの人、前田彩里さん(熊本信愛女学院-佛教大学-ダイハツ)。こちらもマラソン適正抜群のお手本のような走り方。
とにかく腰がグッと入った安定したフォームが綺麗。腕振りも小気味よく上下動が少ない上に高速ピッチだから水面をスーッと進んでいくイメージ。強い体幹と速い脚の運びは無駄な動きをなにひとつ産まない。
この二人は音もなく進んでいくそれこそプリウス以上なハイブリッドで優等生な高級車。でも逆にこの人にこのフォームあり!な個性的なランナーもクセになる魅力が満載。原辰徳に憧れていたけど、クロマティの打撃フォームも真似したくなる。それと同じです。
例えばこの人、村澤明伸さん(佐久長聖-東海大学-日清食品グループ)。ごつごつの筋肉質な見た目通りに力強いランニングフォームが魅力。
上体を前傾させて肩で風を切り裂いていく。そして超強力な蹴り足で飛ぶように進むストライド走法が男臭さ抜群でかっこいい。一歩一歩が走り幅跳びか!ってくらいドカーンドカーンと一人だけ違うリズムで進んで行きます。ものすごく高出力のモンスターエンジン搭載。常人にはとても真似できない走法ゆえに応援したくなる気持ちもひとしおな選手です。
そして女子選手からは日本のエース鈴木亜由子さん(時習館-名古屋大学-JP日本郵政グループ)たぶん人気もNo.1、その理由のひとつに愛くるしげなランニングフォームもあるのでは。
先程の村澤さんが重量級なら鈴木さんは超軽量級。接地時間が短くポンポンポンポン跳ねるように進んでいきます。上体をリズミカルに左右に揺らす小動物的なところが魅力。小さな体すべてをバネと化し懸命に走る姿は誰もがファンになってしまう。まさにカリスマ走り、アイドル性も抜群な選手です。
真似したい理想のランニングフォームとして憧れているランナー4名を取り上げましたが、この人たちみんながみんな長距離界のスーパースター、やっぱり見た目と結果は比例するのかも。今さら、じぶんの身体を劇的に変えることは難儀だけども、せめてこの肩がもう少し言うことを聞いてくれたらなぁ。そう言えばマッサージの人が言っていた「しばらくパソコン使うのをやめてみてください」。そんなことをしたら肩は回るかもしれないけど、首が回らなくなっちゃいます。
佐藤悠基さんはわからないけど、村澤さんは走るであろうニューイヤー駅伝は2018年1月1日(月)9時15分スタート。