ゴールデンウィーク最大の楽しみと言えば、長野へ帰省した際に「川の道フットレース」をリアルタイムで観戦することです。
川の道フットレースとはいわゆるウルトラマラソンの大会で、東京〜新潟まで総距離520km(ハーフ部門260km)を6日間かけて「日本を代表する大河」に沿って縦断する、まさに大河ドラマの如く繰り広げられる超ウルトラマラソンです。
川の道とは太平洋(東京湾)から日本海(新潟市)までを結ぶ道です。日本を代表する大河、荒川(173km)と信濃川(長野県 内では千曲川:367km)は、山梨県(甲州)、埼玉県(武州)、長野県(信州)の三国境に鎮座する甲武信岳によって、水流の行き先をそ れぞれ太平洋と日本海に分けられています。荒川を太平洋から上流へと遡上し、分水嶺を越えて信濃川沿いに日本海へと続く道 を私たちは「川の道」と呼ぶことにしました。 海から山へ、そして山から海へと2つの大河の生涯をたどる「川の道」は森羅万象の息吹すら感じられる道でもあります。荒川と 信濃川の総延長に近い距離 520kmを東京、埼玉、群馬、長野、新潟の1都4県をまたいで走り抜く、壮大でロマンあふれる「日本 横断ステージ」のほか、「小諸なる古城のほとり雲白く遊子かなしむ」と文豪・島崎藤村が詠んだ詩情の町・小諸市からスタート して日本海に抜ける「千曲川〜信濃川ステージ」もあります。(公式サイトより)
この途方もないロマン溢れる大会のコースの一部が僕の地元、千曲川(全国的には信濃川)沿いを走る国道117号線となっているので、大会期間中のゴールデンウィークにはランナーたちの勇姿を拝見することができます。今年で13回を迎えるこの大会も、以前はランナーを目の当たりにしても何をされているのはわかりませんでした。観光客とは明らかに一線を画した疲労困憊な人たちが田舎道を点々と歩いたり走ったりしている姿はある種異様です。
飯山市市川橋より見た千曲川(コースは川の右側になります)
まさか、それがウルトラマラソンのレースだなんて、インターネットで調べて知った時はあまりのスケールの大きさに絶句したものです。だって、本当に何もないんです、あの辺りは。コンビニだって、数十キロ行かないと次のコンビニに辿り着けないレベルです。
川の道フットレースの凄さが年々わかるにつれて、それをライブで見ることがゴールデンウイークの楽しみになりました。フルマラソンの42kmなんて、川の道の520kmからすれば準備体操みたいなもの。川の道のスタートラインに立てるランナーたちはその時点で選りすぐりな鉄人なわけです。(実際、参加資格が設けられているので普通のランナーではエントリーできません。)
東京の葛西臨海公園をスタートして、僕の観戦エリア、長野県飯山市のJR飯山駅のチェックポイントを通過する頃には既に350kmの道のりを走破、例年、トップのランナーでも2日半を要しているわけですから、その姿は疲労と眠気と何らかのトラブルで声をかけるのも忍びないくらいの姿になられています。しかしながら真っ黒に日焼けした身体を一歩一歩懸命に前に運んでいく姿はとても格好良く、神々しさまで感じてしまいます。五月病対策にも川の道戦士への応援はとても効果的ですのでおすすめします。
飯山駅から国道117号線に出た後は僕自身のランニングコースとなるので走りながら応援することもあります。ただし、川の道は各チェックポイントとレストポイントを通過するルールの他は、ランナー自身のプランニングにより展開されるレースなので、昼夜問わず走っているランナーといつどこで遭遇できるかは時の運です。
飯山市菜の花公園から千曲川方面
飯山市〜津南町までのコースは眼下に千曲川を眺めながら、山々の残雪と春の花咲く信濃路のコントラストを楽しめる晴れた日には最高のコースです。が、それが夜ともなれば…、漆黒の闇。生まれ育った者でも恐ろしいくらいの夜道となります。歩いている人なんて一人もいない田舎の国道。しかも飯山市から津南町まではコンビニやお店の類はほとんど無いので街灯と点在している集落の灯り以外にあるのは「夜」のみ。カーブとアップダウンだらけのあの国道117号線を夜中に進む事もあるなんてつくづく過酷なレースです。
昨年も何人かのランナーに一方的に「頑張ってください」と声をかけさせて頂きました。野沢温泉村と栄村の間でお会いしたランナーは強風で地図を落とされ、「もし見つけたら主催者に連絡して欲しい」とお話されていたので少しでもお役に立とうと意気込みコースを逆走して地図を探したのですが、見つけることができず…。しかも、見つからなかった事を報告できるわけでもなく。とても申し訳ない気持ちになりました。その後、無事にゴールに辿り着いたのでしょうか?
申し訳ないと言えば、レース期間中にランニングをしていると川の道のランナーだと勘違いされて走り去る車から応援されてしまうことがあります。それが何とも言えず恥かしく後ろめたい気持ちになるので、今年は気をつけながら応援をします。
2015年、北陸新幹線が金沢まで開通し、飯山市にも待望の新幹線がやってきました。東京からの帰省時間はこの20年で半分以下の約2時間にまで短縮され、世の中の進歩を文字通り肌で感じているわけですが、その一方で、自らの脚のみで東京から長野へやってきて、更にその先を目指す人達もいることに人間が本来持っている底力みたいなものを感じます。私たちのご先祖さまはすべての道を徒歩で移動していたのです。
そんな先人たちのDNAを継いでか継がぬかわかりませんが、今年も選ばれし鉄人たちが川の道に挑みます、みなさんの無事と完走を願いつつ、春の信濃路、千曲川の景観をお楽しみ頂けるよう応援させて頂きます。そして、地元の道を川の道フットレースの一部に組み込んで頂いた主催のスポーツエイド・ジャパンさんには感謝しかありません、大会の成功をお祈りしています。