織田裕二の世界陸上も終わってしまったけど、まだ夏だからアルクマくんも大歓迎、デスティネーションキャンペーン真っ只中の信州に帰省。陸上競技は相変わらず短距離が花形で、中長距離の5,000mや10,000mなんて競技中にフィールド競技の中継が挟み込まれる始末。ゴールまでのプロセスや駆け引きが見どころの競技が台無しです。
10,000mの鈴木亜由子さんの走りが見たくて朝4時に起きたのに、円盤投げの映像を見せられるとは。そりゃ10,000mなんて長くてつまらんと思う円盤投げファンもいるだろうけど…。地デジになって六年、各局チャンネル数が増えた割にはあんまり多チャンネルしてない2017年現在。投げ飛ばされた円盤を横目にレースを終えた鈴木さんの10,000mの結果は31分27秒30で10位。入賞までもう1歩でしたがラストの絞り切る姿を見れたことが何より良かった。
マラソンは男女ともに順当な結果。欲を言えば今回で代表引退を明言していた川内優輝さんには入賞を手土産に花道を飾って欲しかったけど惜しくも9位。それでもラスト2.195kmのラップは全選手中1位!さすがとしか言いようのないブレーキの壊れっぷり。暑さが苦手にも関わらず集大成と位置づけた代表ラストランは、転倒や給水ミスのトラブルに見舞われ、トップ集団から大きく遅れながらも猛烈に追い上げる、川内さんらしい物語のある走りでした。この超一流のタフネス精神力がスピードのあるエリートランナーに備わればマラソンの日本記録更新も遠くないけど、そんなパラドックスじみた理想には期待できない。
お正月の箱根路を華々しく駆け抜けたスーパーエリートランナーが結果を残せるのは決まって30kmまで。となると、残りの12.195kmは才能だけでは埋められない距離ということになります。トレーニングの方法論は格段に進化し、高地冷涼な環境の中でほとんど休みなく走りまくっている実業団ランナーが2時間6分16秒(2002年高岡寿成)の日本記録に指一本触れられないのが逆に不思議なくらいですが、素直に受け取ると2時間8分台が今の実業団レベルの限界点とも考えられます。
最後の12.195kmに必要なのは根性なのか。精神論だけでは強くなれませんが、根性が無ければ絶対に勝てないスポーツが我慢と忍耐の娯楽マラソン。科学的な見地から練習に効率を求め、量より質と言えば聞こえはいいけど、楽して強くなる方法論を模索しているような気がしてならない。代表引退を自ら明言するくらい代表に選ばれるキツさを感じている川内さんほどの覚悟を持ち合わせている代表ランナーはどこに隠れているのですか。
短距離の世界がそうなりつつあるように、将来的にはケニアと日本のハーフ、エチオピアと日本のハーフがマラソン日本代表を席巻し、神輿を担がれた暁に日本記録を更新する日が来るのでしょうか。
20年前までの日本なら、「日本代表はサニブラン・ハキーム君!」なんて言ったら間違いなくコントでしょう。2005年に放送された「絶対に笑ってはいけない高校」に黒人の渡辺くんが貧血で倒れるシーンがありますが、当時は”黒人なのに渡辺くん”のギャップが笑いに繋がったのに、今は”黒人なのに渡辺くん”が日常の光景に落ち着いてしまってます。日本の多民族化は想像以上にすんごい早い。
もし、お家芸だった日本のマラソン界に”黒人の渡辺くん”的存在が現れたら応援する側は笑うのか、それとも笑えないのか、勝利の女神はどうでるか?長い脚を軽やかに回転させて走るケニア人ハーフと苦悶の表情を浮かべ鬼ピッチで走る日本人が競り合う時、日本のマラソンは初めて我慢比べから速さを競うスポーツに生まれ変わるはずです。
そんな日が来る前に実業団に属さないもう一人の異端児、大迫傑選手が日本記録を塗り替えるのか。元祖異端児、川内優輝さんが奇跡を起こすのか。人種、民族なんてお構いなしに己の道を信じて走り続ける根性がある人にこそ手にして欲しいマラソンの日本新記録と賞金1億円。黒人の渡辺くんが出現するまで猶予はあと何年だろう。