最近の寝る前の楽しみは録画した「グレートトラバース2」の再放送を観ることです。昨年夏のオンエアを見逃してしまったので15分バージョンでの再放送はとてもありがたい。
グレートトラバース2とは?(NHK公式サイトより)
北海道・宗谷岬から鹿児島・佐多岬まで総移動距離およそ8000キロ、累積標高差およそ11万メートル!200日以上をかけ、二百名山を人力のみで踏破する前人未到のチャレンジに、あの男が再び挑む!
グレートトラバースに限らず、人が自然を歩く・走る・冒険する番組が大好きで、その中でも登山が大好物。テレビ番組になるのは大体ヒマラヤ登山(なかでもエベレスト多し)ですが、このグレートトラバースは日本百名山と二百名山にスポットをあて、日本の山と観光地ではない土地の素の表情を楽しめるのがいいです。
超有名な観光地の超有名なお店で超有名な芸能人が旨いものを食べる番組はお腹いっぱいです。それはバラエティ番組なので仕方がありませんが、グレートトラバースはドキュメンタリー番組なので過剰な演出も有名タレントも出てこない、それだけでも見る価値アリです。普段はテレビカメラが入らない普通の国道の風景が写ったり、山あいの集落にあるお寺に留守番をしている近所のおじいさんが出たり、グルメ番組では立ち寄ることのない食堂でカツ丼を食べたり、そこにはヒルナンデスでは紹介されない日本の“普通”の暮らしがあります。
さて、このグレートトラバース2、主人公はアドベンチャーレーサーの田中陽希さん。元クロスカントリーの選手で、現みなかみ町でラフティングガイドをしておられる方。持久力はもちろん、自然環境への適応力やハードトレーニングを続けられるタフさ、自力の強さも兼ね備えておられます。あの過酷なアドベンチャーレースのスタートラインに立つ時点でもう常人とは呼べません。そんな常人ではない人が日本の百名山をまるでチェックポイントのように登りつつ一切の交通手段を使うことなく人力のみで7ヶ月超をかけて日本を縦断してしまうのが「グレートトラバース」です。(注:グレートトラバースは百名山をグレートトラバース2は二百名山の百座を登る旅)
この番組の醍醐味は、超人が過酷な旅に挑戦する凄味にスポットを当てているだけではなく、超人と言えども過酷な旅路の中では疲弊し精神的に追い込まれたり、アクシデントによる怪我で旅の停滞を余儀なくされたり、悪天候の前に予定外の休養をせざるを得なかったり、自然の無邪気さや人間の弱さにスポットが当てられていることです。グレートトラバースが映し出すものは、自然とそれに対峙する人間の“ありのままの姿”。だからこそ、スコーンと観るものの胸を打つのではないでしょうか。
そしてもうひとつ、この番組のハイライトは、全国津々浦々で待ち受ける田中陽希さんを応援するたくさんの人たちとの交流のシーン。それは山と山とを移動する道中であったり、山頂であったり、その触れ合いの瞬間は様々な形で訪れます。山頂で待ち受ける人の数は山の難易度に応じて変わり、多いところでは山頂に100人超も。通常なら“感動をありがとう”的なシーンでさえも、グレートトラバースではしっかりと応援される側の葛藤も描いているところが面白いです。行程を急ぐ身体を呼び止められて写真撮影をお願いされることに対する苛立ちや周囲から期待されるキャラクターとリアルな自分とのギャップに苦悩する。応援で力をもうらことが事実なら、応援が時に人を苦しめるのも事実、応援される側の贅沢な悩みかもしれませんが、それがいかにも人間臭くて好きです。
それにしてもいつ来るかわからない人を山頂でひと目、ひと言応援する為に待っている人がたくさんいることにいつも驚かされます。応援される人も才能の持ち主ですが、応援する人も人に力を与える才能の持ち主だとつくづく思います。世の中を支えている人は“人を応援できる才能”の持ち主かもしれません。
たくさんの見所があるグレートトラバースですが、この旅を視聴者が追体験できるのは、ひとえに撮影できるスタッフがいることに尽きます。急登での臨場感ある映像や山頂でのドローン撮影、下山時の遠景など、他では観ることのできない角度で山の美しさや登山の険しさを感じることができます。カメラの前にいるのは田中陽希さんお一人ですが、カメラの裏側にいる方々も充分にグレートトラバースできる超人たち。番組が変われば主人公になりうる人たちがカメラマンとして奔走しているのが面白い。北アルプスの裏銀座の縦走や立山の水平歩道、避難小屋の殺風景な食事シーンなど登山未経験者では絶対に目にできないものを観れるのも楽しみな点。できることならディレクターズカット版として1座1時間くらいの作品にして残して欲しい。この番組は100年後の日本では貴重な資料映像として重宝されるはずです。
グレートトラバースの面白さをざっくばらんに述べましたが、もう一つ、自然や登山、挑戦好きに必ずヒットする番組がTBSの「クレイジージャーニー」こちらも毎週かかさず観ています。先日こちらの番組にも田中陽希さんが登場しました。しかし主役は田中陽希さんではなく、同じアドベンチャーレースチーム「イーストウインド」のキャプテンである田中正人さん。確かこの方はグレートトラバース1で撮影スタッフだった方(2の方は不明)。田中正人さん率いる「イーストウインド」チームが参加したアドベンチャーレースの模様が2週にわたり放送されました。その狂気のコース設定には思わず笑いもおきるほど。しかしその無茶苦茶で破茶目茶なレースを当然のように競技として参加する世界中の冒険家兼アスリートたちの姿を観ていると、オリンピックが健全なアスリートを集めたスポーツビジネスに見えてくるから不思議です。苦痛を苦痛以上に誇張せずにすべてを受け入れて前に進む田中正人さんの姿勢は清々しく心の底から素晴らしいと思います。是非今までの最高位の2位を更新して、優勝を勝ち得て欲しい。
と、就寝前には刺激が強いグレートトラバースとクレイジージャーニーですが、人間離れした人間を観ると人間でいることを誇りに思えます。「あぁ明日も人間でいていいんだ」安心して今日を終われそうです。
最後に田中正人さんがレース中に放った言葉、「僕はね、眠気は無いんだよ。」あの状況でこの台詞を言える人って地球上に何人いるんだろう。
人間ってすごい。